大雪山の恵み、旭川酒ものがたり。歴史ある酒蔵と銘酒を味わう夜
大雪山系の水が育んだ「男山」「高砂酒造」「三千櫻」「上川大雪」という、それぞれに際立つ個性を持つ4つの酒蔵を巡る
雄大な大雪山連峰、アイヌの人々が「カムイミンタラ(神々の遊ぶ庭)」と呼んだ聖なる領域。
その清冽な雪解け水は、長い年月をかけて大地に磨かれ、豊かな伏流水となって旭川盆地を潤します。
この水こそが、日本有数の米どころであるこの地に、全国に誇るべき豊かな日本酒文化を花開かせた命の源です。
この地には、江戸時代から続く伝統の系譜を守る蔵、厳寒の気候という試練を逆手に取り、革新的な酒造りを続ける蔵、そして良質な水を求めて新天地に情熱を注ぐ蔵が存在します
本特集では、大雪山系の水が育んだ「男山」「高砂酒造」「三千櫻」「上川大雪」という、それぞれに際立つ個性を持つ4つの酒蔵を巡り、その歴史と風土、造り手の情熱に深く触れます。
昼は、酒米が磨かれ、水と出会い、発酵を経て酒となるまでの神秘的な工程と、そこに込められた物語を。
夜は、その結晶である一滴を、北の大地の幸を揃えた名店で心ゆくまで味わう。
日本酒愛好家はもちろん、この地の文化を深く知りたいと願うすべての人へ。
水と米、人と技が織りなす「旭川酒ものがたり」を辿る、上質で味わい深い大人の旅へご案内します。
Index
すべての始まり。大雪山の清冽なる「水」
大雪山源水公園(だいせつざんげんすいこうえん)
- 概要: 日本有数の米どころであり、三千櫻酒造も蔵を構える東川町は、全国的にも極めて珍しい「上水道のない町」。
町民の生活すべてが、大雪山が悠久の時をかけて濾過した天然の地下水で賄われています。 - 魅力: 「大雪旭岳源水」として知られるこの公園では、その清冽な水が毎分約4,600トンという圧倒的な水量で絶え間なく湧き出ており、誰でも自由に汲むことができます。
一口含めば、その雑味のないクリアな味わいと、体に染み渡るようなまろやかな口当たりに驚くはずです。
この水が、地域の酒米を育て、銘酒を生み出す原動力となっています。 - 楽しみ方: 旅の記念に空のボトルで持ち帰り、夜に飲むお酒のチェイサー(和らぎ水)として使うのも一興です。
水そのものの美味しさが、酒の味わいをさらに引き立ててくれます。 - 所在地: 北海道上川郡東川町ノカナン
- アクセス(旭川駅より):
- 公共交通: 旭川電気軌道バス[66]いで湯号(旭岳行き)乗車(約60分、運賃目安 900円台)、
バス停「大雪山源水公園入口」下車、徒歩約15分。※バスの本数が少ないため事前確認要。または、[60][67]等で「ひがしかわ道草館」(約40-50分、670円)まで行き、そこからタクシーで約15~20分。 - タクシー: 所要時間 約50分~1時間。料金目安 8,000~10,000円。
- 公共交通: 旭川電気軌道バス[66]いで湯号(旭岳行き)乗車(約60分、運賃目安 900円台)、
伝統と格式。北の大地に根差す銘酒「男山」
- 概要: 寛文年間(1661年~1673年)に伊丹で発祥し、江戸の文化を彩った銘酒「男山」。その正統な伝統を受け継ぎ、大雪山の伏流水を用いて「北の灘」旭川で酒造りを続けるのが、男山株式会社です。
- こだわり: 歌川国芳ら著名な浮世絵師の作品にも描かれたブランドの歴史と品質を守り続ける一方で、全国新酒鑑評会や海外の酒類コンクールで長年にわたり金賞を受賞し続け、その品質は国内外で高く評価されています。
- 体験: 併設の「男山酒造り資料舘」は必見。貴重な江戸時代の古文書や酒造り道具、浮世絵などが展示され、その歴史の深さを感じられます。見学後は、資料舘限定の原酒から定番の大吟醸まで、様々な種類の日本酒を試飲(一部有料)できます。
- 所在地: 旭川市永山2条7丁目1番33号
- アクセス(旭川駅より):
- 公共交通: 旭川電気軌道バス([6] [61] [62] [70] [665] [630] [81]系統など多数)乗車(約25~30分、運賃目安 220~250円)、バス停「永山2条6丁目」下車、徒歩約3分。
- タクシー: 所要時間 約15~20分。料金目安 2,500~3,000円。
氷点下の技と革新。旭川の老舗「高砂酒造」
- 要: 1899年(明治32年)創業。旭川の厳寒の気候風土を「最大の武器」として活かしきる酒造りが特徴の老舗蔵です。代表銘柄「国士無双」は、その名の通り力強くもキレのある味わいで全国にファンを持ちます。
- こだわり: 特に有名なのが、厳冬期に造る大吟醸「一夜雫(いちやしずく)」。氷点下の屋外に吊るした酒袋から、自然の力でゆっくりと滴り落ちる雫だけを集める伝統製法は、まさにこの地でしか生み出せない究極の逸品です。また、日本初の「氷温貯蔵庫」を導入するなど、革新への挑戦も続けています。
- 体験: 明治期に建てられた歴史ある酒蔵「高砂明治酒蔵」は、旭川市の歴史的建造物にも指定されています。レンガ造りの趣ある空間で、直売店限定酒の試飲や買い物が楽しめます。酒粕を使ったソフトクリームやスイーツなども人気です。
- 所在地: 旭川市宮下通17丁目右1号
- アクセス(旭川駅より):
- 徒歩: 約15分。(駅東口から線路沿いに進むのが近道です)
- 公共交通: 旭川電気軌道バス([2] [11] [17] [18] [33]系統など)乗車(約5分、運賃目安 220円)、バス停「1条15丁目」下車、徒歩約2分。
- タクシー: 所要時間 約5分。料金目安 初乗り運賃(700円前後)。
新天地・東川町で醸す、伝統と革新の酒「三千櫻(みちざくら)」
- 概要: 1877年(明治10年)に岐阜県中津川市で創業した老舗蔵が、2020年に大雪山系の豊かな水を求めて北海道東川町へ移転。公設民営の新しい酒蔵として、大きな話題となりました。
- こだわり: 「米の旨味を最大限に引き出す」ことを信条とし、全量を純米造りで醸します。東川町産の酒米「彗星」や「きたしずく」といった道産米を積極的に使用し、この地のテロワール(風土)を鮮やかに表現しています。クリアな水がもたらす、透明感とふくらみのある味わいが特徴です。
- 体験: ガラス張りで開かれたモダンな酒蔵は、製造工程の一部を見学しやすくなっています。洗練された直売所の試飲カウンターでは、定番酒から季節限定酒まで、東川の水で生まれ変わった三千櫻の味わいを確かめられます。
- 【新設】丹丘蒸溜所(たんきゅうじょうりゅうじょ): さらに2023年、三千櫻酒造に併設される形で、クラフトジンとウイスキーを製造する「丹丘蒸溜所」がオープンしました。日本酒造りで培った発酵技術や麹(こうじ)の知見、そして大雪山系の良質な水、北海道産のボタニカル(香味植物)を活かした独自の蒸留酒造りに挑戦しています。日本酒蔵と蒸溜所が一体となった施設は全国的にも珍しく、東川町から発信される新しい酒文化の拠点として、国内外から大きな注目を集めています。
- 所在地: 北海道上川郡東川町西町9丁目4番1号
- アクセス(旭川駅より):
- 公共交通: 旭川電気軌道バス([60]東川線、[67]東川・東神楽循環線など)乗車(約40~50分、運賃 670円)、バス停「ひがしかわ道草館」または「東川町役場前」下車。バス停から徒歩約25~30分。
- タクシー(併用推奨): 「ひがしかわ道草館」からタクシーで約5~10分。または旭川駅から直通タクシーで所要時間 約35~45分、料金目安 6,000~7,500円。
層雲峡の麓、大雪山の懐で醸す「上川大雪酒造 緑丘蔵」
- 概要: 「飲まさる酒(ついつい飲んでしまう、美味しい酒)」をコンセプトに、2017年に大雪山国立公園の麓、上川町で創業。三重県にあった休眠蔵を移設し、情熱ある若手を中心に高品質な酒造りで急速に全国的な評価を高めました。
- こだわり: 「普通酒を造らない」と宣言し、全量を純米酒としています。道産米に徹底的にこだわり、「吟風」「彗星」「きたしずく」など、米の個性を活かした「米飲み比べ」ができる多彩なラインナップが特徴です。仕込み水はもちろん大雪山系の天然水です。
- 体験: 本社蔵である「緑丘蔵」にはギフトショップが併設されており、定番酒からショップ限定酒まで購入が可能です。ガラス越しに醸造タンクの一部を見学できるほか、タイミングが合えば試飲も楽しめます。(※現在、詳細な蔵見学ツアーは休止または要予約となっている場合が多いため、訪問前に公式サイト等でご確認ください)
- 所在地: 北海道上川郡上川町旭町25番地1
- 営業時間: 10:00~16:00(夏季)、10:00~15:00(冬季)
- 休業日: 不定休(公式サイト等で要確認)
- アクセス(旭川駅より):
- 公共交通(JR): 旭川駅 →(JR石北本線・特急または普通)→ 上川駅(特急で約45分、普通で約1時間、運賃 1,290円+特急料金)。上川駅から徒歩約20~25分(約1.8km)、またはタクシーで約5分。
- 公共交通(バス): 旭川駅前 →(道北バス・層雲峡上川線)→ 上川駅前(約1時間50分、運賃 1,330円)。上川駅から徒歩またはタクシー。
- タクシー: 所要時間 約1時間10分。料金目安 15,000~18,000円。
銘酒を最高の肴(さかな)と。旭川、酔いしれる夜
酒蔵で造り手の想いに触れた後は、いよいよその銘酒をじっくりと味わう時間です。
食の宝庫・旭川には、地酒と地元の幸を最高の状態で堪能できる名店が揃っています。
【推薦スポット】 和酒 角打 うえ田舎(わしゅ かくうち うえだや)
- 概要: 旭川のメインストリート「買物公園通り」にある、洗練された「角打ち(立ち飲み)」が楽しめる酒販店です。地元の食通はもちろん、酒蔵関係者からも愛されています。
- 魅力: 店内の販売スペース奥にある、木を基調とした落ち着いた雰囲気の角打ちカウンターが魅力。大将の目利きが光る、北海道の「旬」を詰め込んだおでんや、近郊の幸を使った酒肴が並びます。特筆すべきは圧巻の地酒ラインナップ。「男山」「高砂酒造」「上川大雪」をはじめ、全国の銘酒が冷蔵ケースに並び、好きなものを選んでその場で楽しむことができます。
- おすすめ: まずは「地酒飲み比べセット」で好みの味を見つけ、こだわりのおつまみとの極上のペアリングをお楽しみください。立ち飲みスタイルながら、ゆったりとした上質な時間を過ごせます。
- 所在地: 旭川市4条通8丁目1703-91(買物公園通り沿い)
- 営業時間: 13:00~21:00 (角打ち営業は 16:00~21:00)
- 定休日: 毎週月曜日・最終日曜日
- アクセス(旭川駅より):
- 徒歩: 約7~10分。(買物公園通りを直進)
- タクシー: 所要時間 約5分。料金目安 初乗り運賃(700円前後)。
【まとめ】
大雪山の水という共通の恩恵を受けながらも、守り抜く伝統、挑み続ける革新、そして新たな可能性を求めた移転と、その背景にある物語は蔵ごとに異なります。 それぞれの歴史と哲学を知ることで、いつもの一杯が、より深く、複雑で、豊かな味わいへと変わるはずです。
昼は、清冽な水が流れる源流の地で、酒造りに情熱を注ぐ造り手の想いに触れ、 夜は、北の大地が育んだ最高の幸と共に、その結晶である銘酒に酔いしれる。
そんな「旭川酒ものがたり」を、五感を研ぎ澄ませて体感しに来てください。きっと、あなたにとって忘れられない一杯に出会えるはずです。
